個人間でお金を貸し借りするときは、「借用書」の作成がおすすめです。
「家族や友人などの親しい間柄なら、口約束で大丈夫なのでは?」・・・と思う方もいるかもしれませんが、借用書のない金品の貸し借りは、大きなトラブルにつながる可能性が高くなります。
借主と貸主の双方が安心してお金を貸し借りできるように、借用書はなるべく作成しましょう。
借用書は専門家に頼まなくても、必要事項と書き方のポイントをおさえるだけで誰でも作成することができます。
ここでは、借用書の特徴やメリット、基本的な書き方、見本テンプレート、注意点などを解説します。
個人間でお金の貸し借りをするときに、「本当に返済してくれるのかな?」「いつ返してくれるのだろう?」「だまされたりしないかな・・・」など、不安に思うことがありますよね。
親子・兄弟姉妹・夫婦・恋人・親戚・友人といった親しい間柄でも、お金の貸し借りはナイーブな問題になります。
個人間の借金で不安なときは、お金の貸し借りを証明するための証書(契約書)「借用書」を作成しましょう。
借用書を作成することで、借主と貸主の双方が安心しながら、お金の貸し借りを行うことができます。
「いくら貸した!」「そんなに借りてない!」・・・といった「認識の違い」を防ぐためにも、個人間で金銭のやりとりをするときは、必ず借用書を作成しましょう。
ここでは、借用書の主な特徴やメリットを解説します。
借用書を作成すると、以下のようなメリットがあります。
【借用書のメリット】
借用書には、お金の貸し借りに関する取り決めが記載されています。
そのため、借用書を作成すると、返済金額や返済期日、利息などについて、借主と貸主の「認識の違い」を防ぐことができます。
お金の貸し借りで「認識の違い」があると、「いくら貸した、借りてない」などの金銭トラブルにつながる可能性が高くなります。どんなに信頼している相手であっても、問題が起きないように、金品の貸し借りをするときは借用書を作成しましょう。
借用書は、万が一裁判となったときに、証拠として提出することができます。
逆に、借用書がなければ、金品の貸し借りがあった事実を立証できない可能性が高くなるので、万が一にそなえて、借用書は必ず作成しておきましょう。
借用書は専門家に頼まなくても、自分で作成することができます。
借用書の書き方は、ポイントをおさえるだけで誰でも簡単に作成できます。個人間で金銭や物品の貸し借りを行うときは、借用書を作成しましょう。
一般的に借用書と呼ばれるものには「借用書」と「金銭消費貸借契約書」の2種類があります。「借用書」と「金銭消費貸借契約書」の効果は同じですが、作成方法や保管方法が異なります。
「借用書」と「金銭消費貸借契約書」の特徴・違いは、以下のとおりです。
名称 | 特徴 | 作成数 | 署名 | 保管先 |
---|---|---|---|---|
借用書 | 借主が主体となって作成し、貸主に渡す証書 | 1通 | 借主 | 貸主 |
金銭消費貸借契約書 | 金銭の貸し借りについて、双方で結ぶ契約書 | 2通 | 借主と貸主 | 借主と貸主 |
そして、「借用書」と「金銭消費貸借契約書」のメリット・デメリットは、以下のとおりです。
名称 | メリット | メリット |
---|---|---|
借用書 | ・1通だけ作成するので手軽 ・1通だけ作成するので、収入印紙代が安くなる |
・1通だけしかないので、紛失や改ざんのリスクが高い |
金銭消費貸借契約書 | ・借主と貸主で1通ずつ保管するので、紛失や改ざんのリスクが減る ・契約内容について、より詳細に記載できる |
・2通作成するので、手間がかかる ・2通作成するので、収入印紙代が高くなる |
このように「借用書」と「金銭消費貸借契約書」には、それぞれ良い面と悪い面があります。
借用書は、縦書き・横書きのどちらでも作成可能です。また、借用書の正しい書き方(書式)にそっていれば、パソコン(メモ帳・Word等)・手書きのどちらかで作成しても問題ありません。
ただし、有効な借用書には「必要事項」が明記されている必要があります。
必要事項が記載されていない借用書は、無効となる可能性があるので注意しましょう。
ここでは、借用書の書き方と大切なポイントを解説します。
借用書は、印刷用紙やノート、チラシの裏などでも作成できます。ただし、「感熱紙」は長期保存すると文字が消えてしまうことがあるので、使わないようにしましょう。色移りがしやすかったり、文字が読みにくくなったりするような紙も禁止です。
道具の準備ができたら、借主と貸主の双方による取り決めをもとに、借用書を作成しましょう。裁判の証拠となるような「有効的な借用書」を作成するためには、以下の「必要事項」を記載します。
【借用書の必要事項】
各項目の詳細については、以下で解説します。
借用書を作成するときは、タイトル(表題)として「借用書」と表記しましょう。
「借用書」のタイトルが表記されていないと、借用書として解釈されない可能性があります。「借用書」というタイトルがないと、メモ書きと勘違いされたり、言い逃れされたりする危険性があるので気をつけましょう。
借用書を作成するときは、宛名(貸主の氏名)も必ず記載しましょう。宛名が不明だったり、間違っていたりすると借用書が無効になってしまう可能性があります。
借用書の宛名は「○○殿(様)」と記載しましょう。
借用書の作成日は、金銭受領日の日付になります。
たとえば、4月1日にお金を借りる場合は、金銭受領日の4月1日が借用書の作成日となります。
借用書は借主が作成して、金銭受領と引き換えに貸主に渡すものです。そのため、実際にお金を借りた日(金銭受領日)が借用書の作成日となります。
借用書の作成日と金銭受領日が異ならないように注意しましょう。
借用書に記載する金額は「アラビア数字」ではなく、「漢数字(大字)」を使いましょう。
借用書の金額を「1、2、3・・・」などで書いてしまうと、間違えたり、改ざんされたりするリスクが高くなります。
このほかにも、金額(数字)の間に「隙間を作らない」ことが大切です。隙間があると数字を追加されてしまう危険性があるので気をつけましょう。
【アラビア数字と大字の一覧】
アラビア数字 | 漢数字(大字) |
---|---|
1 | 壱 |
2 | 弐 |
3 | 参 |
4 | 四 |
5 | 五 |
6 | 六 |
7 | 七 |
8 | 八 |
9 | 九 |
10 | 拾 |
100 | 百 |
1000 | 千 |
10000 | 万 |
借用書を作成するときには、金銭を受領した(お金を借りた)こと明記しましょう。
「上記の金額を確かに受領しました」「上記の金額を本日確かに借用いたしました」「私は貴殿より 上記金額を借り受けました」など、わかりやすい文面がおすすめです。
お金の貸し借りがあったことがわかるように、借用書には「金銭を受領した旨」を記載しましょう。
借用書には、返済期日を正しく記載しましょう。返済期日を書かないで曖昧にしておくと「いつまでにお金を返す」という約束がないために、金銭トラブルにつながる可能性が高くなります。
あとで問題にならないためにも、借用書には返済期日(○年○月○日)を記載しましょう。
借用書には、返済方法もしっかりと記載しましょう。
一括払い・分割払い、現金手渡し(持参)・指定口座振込など、返済方法について取り決めたことを明記します。指定口座振込の場合、どちらが手数料を負担するかということも書いておきましょう。
返済方法が不明なままだと、金銭トラブルにつながる可能性が高くなります。借用書には、返済方法を必ず記載しましょう。
個人間の借金では「利息なし(無利息)」や「利息あり」を自由に決めることができます。個人間のお金の貸し借りで利息をとる場合は、借用書に金利を記載しましょう。
上限金利(金利の上限)は、「利息制限法」と「出資法」によって定められています。
個人間の利率は「年109.5%」まで設定できますが、「利息制限法」の上限を超える利率は無効となり、支払い義務がなくなります。
利息が高すぎると金銭トラブルにつながる可能性も高くなるので、借金の利息を取り決めるときは「利息制限法」の範囲内を目安にしましょう。
「利息制限法」の上限は、以下のとおりです。
【利息制限法の上限】
借入額(元本) | 上限金利(年) |
---|---|
10万円未満 | 20.0% |
10万円から100万円未満 | 18.0% |
100万円以上 | 15.0% |
また、個人間の借金には、特に取り決めがなくても「遅延損害金」を支払う義務があります。
借用書に遅延損害金の利率を記載しなかった場合は、民事法定利率である「年5%」が請求できます。
個人間の遅延損害金も「利息制限法の第4条」によって上限利率があるので、借用書に記載するときは注意しましょう。
【遅延損害金の上限利率(個人間の場合)】
借入額(元本) | 上限金利(年) |
---|---|
10万円未満 | 29.2% |
10万円から100万円未満 | 26.28% |
100万円以上 | 21.9% |
借用書には、借主の署名(借主の手書き・自筆)と押印をつけましょう。借主の署名がないと、借用書が無効となる可能性があります。万が一、裁判となった場合でも、借主の署名があれば「借用書」の事実を筆跡鑑定で証明することができます。
押印は、拇印や三文判でも問題ありませんが、より確かな借用書にしたい場合は「実印」を使用しましょう。
借金が1万円以上の借用書には、借入額に応じた「収入印紙」を貼ることが義務づけられています。収入印紙を貼り忘れても借用書の効果はありますが、あとで追徴課税(3倍の額)を支払うことになってしまいます。
借金が1万円以上の借用書には、必要な金額の「収入印紙」を貼付しましょう。
【借入額に応じた収入印紙】
借入額(元本) | 収入印紙 |
---|---|
1万円未満 | 非課税 |
10万円以下 | 200円 |
10万円を超え50万円以下 | 400円 |
50万円を超え100万円以下 | 1千円 |
100万円を超え500万円以下 | 2千円 |
500万円を超え1千万円以下 | 1万円 |
1千万円を超え5千万円以下 | 2万円 |
5千万円を超え1億円以下 | 6万円 |
1億円を超え5億円以下 | 10万円 |
5億円を超え10億円以下 | 20万円 |
10億円を超え50億円以下 | 40万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 |
契約金額の記載のないもの | 200円 |
借用書は、見本・テンプレートを利用すると手軽に作成できます。借用書の作り方がわからないときは、無料のテンプレートを活用しましょう。
ここでは、基本的な借用書の見本・テンプレートを紹介します。
今回は「シンプルな借用書、一括払いの借用書、分割払いの借用書」の3つを用意しました。使いやすいものを選んで利用ください。
借用書の見本・テンプレートは、以下のとおりです。
【一番シンプルな借用書】
○○○○ 殿
金○○○万円也
令和○○年○○月○○日
住所(借主) ○○県○○市○○区○○丁目○○番○号
氏名(借主) ○○○○ 押印
【借用書(一括返済の場合)】
○○○○ 殿
金○○○万円也
上記の金額を私は確かに下記の約定により、借用いたしました。
1.元金は令和○○年○○月○○日までに返済いたします。
2.利息は年○%、遅延損害金は年○%とし、元金とともに一括返済いたします。
3.返済方法は、ご指定の口座に振り込みます(振込手数料は借主負担)。
令和○○年○○月○○日
住所(借主) ○○県○○市○○区○○丁目○○番○号
氏名(借主) ○○○○ 押印
【借用書(分割返済の場合)】
○○○○ 殿
金○○○万円也
上記の金額を私は確かに下記の約定により、借用いたしました。
1.元金は、令和○○年○○月末日から令和○○年○○月末日までに、毎月末日までに金○○万円ずつ(最終回は金○○万円)返済いたします。
2.利息は年○%、遅延損害金は年○%とし、元金とともに返済いたします。
3.返済方法は、貸主方に持参または送金いたします。
令和○○年○○月○○日
住所(借主) ○○県○○市○○区○○丁目○○番○号
氏名(借主) ○○○○ 押印
借用書は、行政書士などの専門家に依頼して作成してもらうことも可能です。借用書の作成費用として1~1.5万円ほどかかりますが、借用書の自作に不安がある方は、専門家に依頼する方法もおすすめです。
借用書は裁判のときに証拠となりますが、差し押さえなどの法的強制力はありません。借用書に法的強制力を持たせたいときは、「公正証書(金銭消費貸借契約公正証書)」にしましょう。
ここでは、法的強制力のある「公正証書」について解説します。
個人で作成した借用書は「私文書」なので、裁判ときに証拠となっても、差し押さえなどの法的強制力はありません。
法的強制力のある借用書にしたい場合は、「公正証書(金銭消費貸借契約公正証書)」にする必要があります。
借用書(私文書)と公正証書にはそれぞれメリットとデメリットがあるので、状況に応じて使い分けましょう。
【借用書(私文書)と公正証書の違い】
名称 | 特徴 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
借用書 | 個人が作成した私文書 | 簡単に作成できる、裁判で証拠になる | 強制執行ができない |
金銭消費貸借契約公正証書 | 公証人が作成した公文書 | 強制執行ができる、改ざんできない | 作成する手間とお金がかかる |
公正証書を作成する場合は、公証役場に出向いて公証人に依頼するため、手間と費用がかかります。ですが、借用書を公正証書にすると「法的強制力のある借用書」となり、原本は公証役場で保管されるので紛失や改ざんのリスクもなくなります。
借金が大金だったり、不安のある契約だったりする場合は、借用書(私文書)ではなく、公正証書(金銭消費貸借契約公正証書)にしましょう。
借用書には、作成するときの注意点があります。無効な借用書とならないためにも、借用書の注意点を確認しましょう。
ここでは、借用書の注意ポイントを4つ解説します。
借主や貸主のどちらか一方に著しく不利な条件を記載すると、借用書が無効になる可能性があります。たとえば、「貸主がすべて決めて、どんなことでも借主は服従する」などの内容は厳禁です。
借用書に記載する内容は、借主・貸主の双方にとって納得のいくものにし、どちらか一方に著しく不利な条件にならないように注意しましょう。
「制限行為能力者」との借用書(契約)は、無効になる可能性があります。「制限行為能力者」とは、「契約などの法律行為を単独で有効に行うことができる能力」を制限された人を指します。
未成年者は「制限行為能力者」に該当するので、お金の貸し借り(契約)をするときは注意しましょう。
借用書には、返済期日と返済方法を必ず記載しましょう。「お金をいつまでに返すのか」「どのように返すのか」が決まっていないと、金銭トラブルにつながる可能性が高くなります。
また、返済時には「返済の証拠」も残しておきましょう。
借用書には、時効消滅があります。
「貸金債権(お金を返してもらう請求権)」の「時効消滅期間」は、個人間の場合だと「10年」になっています。
借用書を作成してから10年を過ぎてしまうと、貸金債権が時効消滅するので注意しましょう。借用書に記載する返済期日や返済回数を決めるときは、貸金債権の時効消滅期間「10年」を目安にすることがおすすめです。
この記事では、借用書の書き方について解説しました。いかがでしたでしょうか?
借用書は、お金の貸し借りを証明するための証書(契約書)です。金銭トラブルを防ぐためにも、親しい間柄であっても、金品の貸し借りをするときは借用書を作成しましょう。
借用書は、書き方のポイントをおさえるだけで簡単に作成することができます。無料の見本・テンプレートもあるので、個人間で借金をする場合は、借用書を作成しましょう。